防犯カメラをグレードアップ、地域社会を安全に【Sonny Tai/Actuate社】

Sonny Tai (ソニー・タイ)

既存の防犯カメラを脅威を検知するカメラに変えるAIソフトウェアを提供するアクチュエイト社(ニューヨーク)の創業者。

20年前、シングルマザーの母と妹と一緒に無一文で渡米。

奨学金を得てイリノイ大学で文学士号を取得し、シカゴ大学の経営大学院においてMBAを取得後、米国海兵隊に入隊。海兵隊の大尉として、対テロリズムと部隊保護の作戦と訓練を担当。退役後、企業の経営者が抱える問題を解決する戦略アドバイザーの経験を経てアクチュエイトを設立。

創業まで

既存のセキュリティカメラが脅威を自動的に識別できるようにすることで、地域社会の安全性を高めるAIソフトウェアを構築しています。現CTOを務めるベン・ジオメクとスタートアップを設立しました。私は台湾で生まれ、南アフリカで育ちましたが、ベンも私も、身の危険を身近に感じて育った生い立ちから、公共の安全性というものに大きな情熱を持っています。

南アフリカは世界で最も暴力的な犯罪が多い国のひとつで、強盗やカージャックに遭った友人もいました。10年前には、幼い頃の遊び仲間の父親が強盗に銃で撃たれるという、私の中で最悪の事件がありました。この事件をきっかけに、人々の安全を守りたいという情熱が芽生え、家族でアメリカに移住した後に海兵隊に入隊し、最終的にこの会社を立ち上げました。

外交官の父を持つベン・ザイオメックは、海兵隊に守られた大使館で育ちました。彼は、海兵隊の大使館員がテロの脅威に対応して警戒態勢に入るのを何度も目の当たりにし、母親が炭疽菌を感染したことも何度かあったといいます。セキュリティオペレーションがいかに困難で手間のかかるものであるかを身をもって体験している彼は、私がアクチュエイト社につながるアイデアを彼に話したとき、とても興奮した様子でした。

業界の現状

セキュリティオペレーションは基本的に非効率的です。相手はどこを攻撃すべきか心得ている反面、セキュリティ担当者はどこを守ればよいのかわからないことが多いのです。この欠点は、人間は一度にすべてを見ることはできないという事実に帰結します。この情報格差をカメラで埋めようとする組織もありますが、セキュリティカメラの約95%は非常に非効率的な監視システムであるため、ほとんどのカメラはデジタル証拠として映像を記録に残すだけです。残りの5%は、オペレーターが大画面モニターの前に座り続け、カメラに動きがあったときのアラートを確認するというものです。

モーションアラートに対応するオペレーターや警備員の非効率性にもかかわらず、人間が脅威に対応することは、今や1,000億ドル規模の産業となっています。だからこそ、既存の防犯カメラを、映像を記録するだけの受動的な機器から、脅威や建物管理の問題を積極的に特定するスマートカメラに変えることで、セキュリティを根本的に変革します。

私たちのビジョンは、すべてのセキュリティカメラを有効なものに変革して、コミュニティがより安全な生活を送れるようにすることです。

企業の成長

創業者と2人の営業担当者だけで、パンデミックが始まってから2021年第1四半期までの1年間に、前月比で50%以上の成長を実現しました。これにより、1カ月半前にTVP社からシリーズAの資金調達を行うために必要なトラクションを得ることができました。

私たちははじめ銃検知の会社としてスタートし、学校区や病院、企業向けに銃撃者の鎮圧策を販売していました。2020年初頭には20社以上の企業顧客がパイロット契約を結ぶなど、勢いがありましたが、パンデミックが深刻化し、施設が閉鎖されたため、これらの展開のほとんどが一時的に保留となってしまいました。

その結果、遠隔地のビデオ監視会社などの顧客層が、業務改善のためのAIツールを切実に必要としていることがわかりました。しかし、誤検知が多いツールしかなく、既存システムとの相性も悪かったのです。そこで、私たちはモデルをカスタマイズし、警備員やオペレーションセンターのアナリストへの依存度を下げるために、監視会社への販売を開始しました。それに加えて、国防総省と製品市場の適合性が高いこともわかりました。その結果、第3四半期までに変曲点を迎え、その勢いは今日まで続き、現在の年商400万ドルに到達することができました。

また爆発的な成長が続いているのは、市場が巨大であることも起因しています。物理的なセキュリティは、モーションセンサーと警備員に支配された旧態依然とした業界です。一方、セキュリティカメラはどこにでもあり、平均的なアメリカ人は1日に70回はカメラに映っていますが、これらのデータのほとんどはハードドライブに記録され、分析されることなく廃棄されています。

私たちは、全米で展開されている8,500万台のセキュリティカメラをスマートカメラに変え、センサーや警備員への依存を減らすことで人々の安全を守ります。また、AIの導入により110億ドルの機会を創出することで、この1,000億ドル規模の産業をさらに変革します。

110億ドル規模のこの市場への参入は、主要な顧客層においてすでに大きく前進しています。リモートモニタリングでは、業界最大級のモニタリングセンターと契約を結びました。初期ACV(年間契約金額)は約25万ドルですが、自動化による大幅なコスト削減を支援しているため、いくつかの主要顧客ではすでに50万ドル近いアップセル(上位プランの販売)が発生しており、その中には、3年間で130万ドルの契約を結んだ顧客もいます。住宅分野では、世界最大級のホームセキュリティ監視プロバイダーであるSimplisafe社およびVerisure社と初期導入の契約を締結しました。

防衛・公共分野では、当社は軍民両用であり、陸軍や複数の一次請け企業と協力して、軍需品の検知や部隊の保護などの自動化ユースケースにAIを導入しています。これらのお客様は今後も安定した収益源となり、当社の商業的成長の原動力となってくれるでしょう。

エンドユーザーは、当社にとって最大の顧客セグメントですが、より細分化されており、初期のACVはもう少し小さくなります。私たちは、有名私立学校から公立学校区や企業の本社まで、さまざまな顧客を獲得して成功を収めています。

この分野は、パンデミックの影響で1年ほど停滞していましたが、今は活気を取り戻しています。当社のエンドユーザーはいずれも更新しており、今年初めにはAAA社と9万ドルで年間3年契約を結び、複数のキャンパスやオフィスに展開することになりました。さらに、ニューヨーク最大のアフォーダブル・ハウジング・デベロッパーであるL&Mプロパティーズと契約を締結しており、最近では他のREITや不動産管理会社とも初期導入の契約を結んでいます。

サービスの未来

ハードウェアベースのプロバイダーがほぼ完全に飽和している業界において、当社はソフトウェアベースの技術を採用しているため、同業他社よりも迅速に導入・拡張することができます。

この拡張性により、当社は他の誰よりも速く成長し、いち速く導入できることから、最も多くのトレーニングデータを収集することができます。その結果、他の追従を許さない優れたAIモデルを磨き続けることが可能です。この好循環がうまく回り始めていることは、これまでの当社の歴史の中で、1台のカメラも解約されていないことからもわかります。

(取材=宮尾卓志 写真=Actuate)


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